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コストカットが、狂気になるとき

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映画「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰? 」を、U-NEXTの配信で観た。 

この映画は2022年のフランス映画で、映画のジャンルは実録サスペンスだ。 

この映画の主人公は、映画のタイトル通りにモーリーン・カーニーという名の、2012年に56歳だった女性だ。モーリーンは、原子力企業のアレバ社のフランス民主労働組合代表で、ホイッスルブローワーでもある女性だ。 

この映画は、2012年の12月17日のある事件から始まる。その事件とは、この映画の主人公モーリーンが、何者かにレイプされて、腹部に三角形の傷をつけられるという事件だ。この事件の犯人は、未だに明らかになっていないと、映画のラストでは示される。 

ただし、この事件の犯人は映画中に明示はされないが、ほのめかされる。それは、フランスの憲兵隊がレイプをした犯人である、という暗示だ。憲兵隊は、モーリーンのレイプ事件の前にも似たような事件を起こしており、憲兵隊が事件の犯人ではないかという可能性が、この映画では示される。 

なぜ、モーリーンやモーリーン以前の事件の被害者は、レイプされて体に傷を残されたのか? それは、多国籍大企業である原子力企業の開発の邪魔になると判断されたからだと、この映画ではほぼ明示的に示されるとも言える。 

モーリーンは、ある時、別の原子力の企業の内部告発者から、中国がフランスのアレバ社と手を組んで、安い原子力事業を始めようとしている、という内容の内部告発の秘密を聴くことになる。その内部告発者は、モーリーンが何度目かの接触をしようとする前に、心臓発作で死ぬ。 

中国と安価なビジネスを、フランスのアレバ社が行うということは、どういうことか? それは、コストカットが行われるということだ。コストカットは、お金がかかるところをカットする。経営でお金がかかるのは人件費だ。アレバ社の社員は、フランスのアレバ社が中国と手を組めば、大量のリストラを行うことは目に見えている。 

そのリストラを阻止したいのが、モーリーンだ。フランスのアレバ社が中国と手を組むのは、莫大な額の利益を企業にもたらす。しかし、リストラが行われれば、労働者は路頭に迷うことになる。 

アレバ社としては、利益追求のために中国との契約を推し進めたい。モーリーンはアレバ社の労働者の代表であり、何としてもリストラの原因となる中国との契約を阻止したい。ここで、利害関係の対立が生じる。そして、利害関係の衝突が生じた時に、卑劣な手に出るのは権力側だ。 

多国籍大企業のための汚れ仕事を、なぜ憲兵隊がするのか? それは、フランスの国の暴力装置である憲兵隊が、国の利害のために利用されるからだ。国側は企業側に賄賂を貰っていることはないとしても、簡単に言えば国は企業が納める税金で国の資産を増やす。だから多国籍大企業の利益は国の利益になるのだ。 

映画では、モーリーンのレイプ事件の犯人は示されない。この映画では、モーリーンをレイプをしたのは誰かという問題が、モーリーンがレイプ事件を偽装したのだと、レイプ事件はモーリーンの自作自演だということに論点がすり替わり、そのためにモーリーンは自分がレイプ事件をでっちあげていないことを証明しなければならないことになる。 

これは、国が多国籍大企業が、モーリーンを排除したいと思っている態度の現れだと考えることができる。モーリーンは権力者にとって邪魔者なのだ。だから、邪魔者は排除したいのが国と多国籍大企業だと考えることができる。 

ここ日本は、フクシマの事故が起きたのにも関わらずに、ここ最近までに、次々と原子力発電所の運転が再開されている。国際的な意見を考えれば、地震大国日本の原子力発電所はすべて廃炉にされるべきだ。 

それにも、関わらず日本政府は、原子力発電所を再稼働させている。これは、原子力関連企業の要望を、忖度かどうかはわからないが、国が吞んでいるということだろう。つまり、金が儲かると企業は何でもする。企業には、原子力の被害の実態を無視しようという意図がある。企業は、わざと馬鹿なふりをする。 

廃炉にしても、原子力のゴミをどこに捨てるのか? という問題が残る。映画中にこういう発言が出てくる。「フクシマは世界をゴミ捨て場にした」。原子力を稼働して事故が起こったら、とんでもない事態に陥る。しかし、廃炉にしても原子力のゴミが生じる。それなのに原子力発電の新規事業を始める?? フランス政府と多国籍大企業は狂っている。 

 ジャーナリストのデコート・豊崎・アリサさんは、原子力の使用をやめさせるためには、原子力に使われるウランの採鉱場からウランが運び出されないようにすれば良い、とバラカン・ビートというピーター・バラカンさんがDJをしている番組で言われていた。 

これは、非常にわかりやすい発言だが、これを実行するためには、各国や多国籍大企業と闘わなければならないだろう。ただし、デコート・豊崎・アリサさんの発言は実にその通りだ。ウランがなければ、アフリカ大陸からウランが輸出されなければ、原子力発電所は止めることができるだろう。 

モーリーン・カーニーは原子力の多国籍大企業で働くエリートだ。モーリーンは、原子力の事業で出たお金を貰って生活をしている。だから、モーリーンは、原子力発電を完全には否定できない。なぜなら、原子力の仕事で生活をしているからだ。 

モーリーンは、原子力企業の社員から見れば、心強い味方であると同時に、会社の癌でもある。モーリーンは、会社の従業員を守ると同時に、原子力で給料を貰うことを否定しない。ただ、国や企業から、利益拡大のための開発を、従業員のために反対したことで、酷い仕打ちを受けることになるが。 

モーリーンはアレバ社に勤める前は、英語の教師をしていた。そこから、アレバ社に入り、結果的に英語の教師の仕事に戻っている。モーリーンはこう言われるかもしれない。「お前は原子力の事業で給料を貰っていながら、事業の拡大を反対するのか!?」と。 

ただ、モーリーンは現場で働く従業員の見方だ。原子力の現場で働く従業員は、危険な仕事をしている。もちろん、原子力の仕事は体にも良くないし、自己が起これば死の危険性がある。そのような、現場の仕事をしている人を守りながら、実は原子力を維持するのに加担して、労働者の味方という立場を利用しているのも、モーリーンであると考えることもできる。そのように考えると、モーリーンが英語教師に戻ることは、モーリーンから荷が下りた感じもする。 

各国政府と多国籍大企業を相手に闘うモーリーンと共に、私たちは闘うべきだ。そして、モーリーンが原子力事業に反対するのならば、それはより共感を強くするだろう。 

そういえば、多国籍大企業に出資する投資家もいるのかな?? 


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