映画「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮(原題:En kongelig affare)」を観た。
この映画は2012年のデンマーク映画で、映画のジャンルは宮廷・不倫・政治ドラマだ。
この映画の舞台は、1700年代後半・18世紀後半のデンマークの王宮だ。イングランド王家からデンマーク王家の王様のクリスチャン7世のもとに15歳で嫁ぎにやってきた、イングランド王ジョージ3世と兄弟でもありクリスチャンでもあるカロリーネは、リベラルな思想である啓蒙思想に関する教養も持つ結婚を夢見た女性だった。
そのデンマーク王妃のカロリーネと、デンマーク王のクリスチャン7世の間に割って入るのが、町医者であるヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセだ。ちなみに、映画の原題の日本語訳は、「王宮の出来事」で、邦題の“ロイヤル・アフェア”は、原題に忠実だ。
時のデンマークは、ベルンストルフクト外相が実質的に仕切っており、デンマークは非常に保守的で、農民にとっては厳しい国だった。簡単に言うと、カロリーネとストルーエンセとクリスチャン7世はリベラルな思想背景を持っていた。
リベラルとは言えど、クリスチャン7世は、ベルンストルクフト外相の差し出す書類にサインをするだけで、政治的にはまったく無力だ。ただし、クリスチャン7世は教養は持っておりそれを生かすための精神的基盤が脆弱すぎる。
クリスチャン7世は、承認欲求に飢えている。それを利用して、ストルーエンセはクリスチャン7世に取り入る。ストルーエンセはドイツの保守的なプロテスタントの牧師のもとに生まれて、王宮や貴族とは無縁の生活をしていた。
そこに、ランツァウとブラントというデンマークの保守的な王朝から外された貴族がやってくる。ランツァウとブラントの2人は、ストルーエンセを王家の侍医候補にするから、リベラルなランツァウとブラントのために王に取り入れと言われる。
ストルーエンセは、野心に溢れた男性だ。デンマークの民衆の置かれた状況をストルーエンセは良く知っており、それが持ち前の啓蒙思想と繋がり、デンマークの王に取り入って、民衆のためになる政策を通そうとするのがストルーエンセだ。
啓蒙思想とは何か? それは、単純に言ってしまえば、自由主義的な、リベラルな思想ということだ。ロック、ヴォルテール、ルソーなどの思想を読み、人間の自由とは何か? 国家とは何か? という問いに応えていったのが啓蒙思想だ。
当時のデンマークの農民は、地主の所有物だった。農民は、土地保有の支配権取得の時に契約を要求する権利を持たなかった。また、農民は、謄本土地保有の期限が切れた時に、土地を手に入れるための支払いの要求ができなかった。
デンマークの1700年代後半の農民は、地主の所有物で、人権というものを持たなかった。農民は人として認められていなかった。そして、それは、クリスチャン7世も、ストルーエンセも、カロリーネも同じことだった。
クリスチャン7世は、書類にサインをするだけの存在。ストルーエンセは、自分の信じる啓蒙思想を隠して生きる人生。カロリーネは、結婚以外の選択肢がなく、王の子供を生むためだけの存在。3人にも、人権はない。
カロリーネは、クリスチャン7世との間に、フレデリクという子供を持つ。またカロリーネは、ストルーエンセとの間に、ルイーセ・アウグスタという子供をもうける。カロリーネとストルーエンセは不倫関係にあった。
ストルーエンセは、貧しい人を救うために、王族の人間を誘惑する、誘惑者だ。ストルーエンセは、国王と王妃を取り込んでしまう。だが、そのストルーエンセも、カロリーネとの間の不倫の醜聞を立てられ、新聞にその醜聞が載り、国民から嫌われる存在になる。
王家は、品格によってその存在意義を決定づけられる。保守的な国の王家が不倫をしていたら、国民は怒るだろう。しかも、ストルーエンセの努力も虚しく、メディアはストルーエンセの悪口を書く。メディアは、民主主義の集合的意識を作り上げるのには欠かせない。そのメディアは、当時のデンマークでは、貴族の権力維持のためのメガホンとして使われていた。
つまり、ストルーエンセは、国民に嫌われた。国民に嫌われた統治権力の一員は、国民からの支持を失い地位を失う。いくらストルーエンセが、貧しい人を救おうとしても、メディアが、ストルーエンセを悪く書けば、ストルーエンセの人気は落ちて、国民の支持を失う。
今現在の世の中でも、大衆の支持は政治の世界では大きな説得力を持つ。ただし、大衆が賢いとは限らない。だから、ストルーエンセは、斬首台に送られることになる。そして、メディアをコントロールするのは、王族と貴族だ。
アメリカ合衆国の2024年の大統領選でも、お金持ちがメディアを支配して、保守的な大統領であるドナルド・トランプが、大統領になった。そのお金持ちとは、Xを所有するイーロン・マスクだ。
この映画「ロイヤル・アフェア」でも、今の社会でも同じことが起こっている。金持ちがメディアを支配して大衆をコントロールする。メディアを支配した者が、権力を持つことができる。大衆は、メディアを通じてお金持ちに洗脳されコントロールされる。
ちなみに、2024年の大統領選でイーロン・マスクが選挙戦に使ったお金は2億6千万ドルだ。例えばそのうちの、2千50万ドルは、妊娠中絶に関する広告に使われた。(アメリカ合衆国では最高裁で妊娠中絶が違法にされている。)
メディアを使えば、大衆のコントロールは可能だということが、2024年のアメリカ大統領選挙でも明らかになった。それは、1700年代・18世紀のデンマークでも同じことだったのが、この映画「ロイヤル・アフェア」を観ているとわかる。
この映画は、ただの宮廷不倫ドラマとして観るのには惜しい映画だ。今の社会を知るためのヒントがこの映画にはある。それは、ビリオネアがお金持ちが国を支配するためにメディアを利用するということだ。
斬首台の前に広がる大衆の姿を見た時、ストルーエンセは大衆の恐ろしさを感じただろう。メディアにコントロールされた大衆の狂気は、この映画の終盤で明らかになる。大衆からのプレッシャーで、カロリーネはアヘン中毒に陥る。
王族には品格が必要だ。それは、大衆の支持を得るためだ。そして、こうも言える。大衆は王族の品格とやらに騙されるほど単純だと。そしてこの映画の場合、大衆が変われば、救われるのは大衆だけでなく、王族も救われるのだ。
※出典
・ブリタニカ国際大百科事典
・Musk spent more than a quarter-billion dollars to elect Trump, including funding a mysterious super PAC, new filings show
By Fredreka Schouten, David Wright and Alex Leeds Matthews, CNN Updated 9:33 AM EST, Fri December 6, 2024
https://edition.cnn.com/2024/12/05/politics/elon-musk-trump-campaign-finance-filings/index.html
・Trump is consistently inconsistent on abortion and reproductive rights
BY CHRISTINE FERNANDO Updated 9:42 PM JST, October 17, 2024