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アメリカ合衆国にやってきた異星人は、カリブ系の黒人の移民

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映画「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット(原題:The Brother From Another Planet)」を観た。

この映画は1984年のアメリカ映画で、映画のジャンルはコメディ・SFだ。

この映画の主人公は、見た目は黒人で、言葉がしゃべれない、足の指が3本でその先にとがった爪が生えた、異星人だ。この異星人の特技は、壊れたものをなおすことだ。地球に着陸した時に、失われた自分の右足の傷口に自分の右手をかざして治し、ニューヨークのハーレムの黒人街の酒場にある、壊れた電子ゲーム機を直す。

この映画の冒頭は、この宇宙人が宇宙船に乗っているところから始まる。その時、背景に流れている音楽には、スティール・パンという楽器の音色が聴こえる。スティール・パンとは、アメリカ合衆国の南のカリブ海にある島国の、トリニダード・トバゴ共和国で1939年頃に発明された楽器だ。

ティール・パンとは、ドラム缶を改造して作られたような楽器で、独特な透明感のある金属音がする楽器だ。その楽器の音が、この異星人が宇宙船に乗っている背景に流れている。異星人の姿は黒人で、カリブ海のスティール・パンが流れる。そうつまり、この黒人のような見た目の宇宙人は、カリブ海系の黒人のことを指しているように思われる。

映画中で、このカリブ海系の黒人に似た宇宙人は、見た目が黒人のステレオタイプなので、黒人たちに、黒人たちが同胞を呼ぶ言葉であるブラザーと呼ばれる。ブラザーは、服はボロボロで、パンクみたい、言葉は話さない、お金は持っていないので、行きついたハーレムの酒場でカリブ海系の黒人として扱われる。そして、その酒場が、ブラザーがコミュニティに住み着く機会を与えてくれる。

映画の中の登場人物が、ブラザーのことを、「お前はプエルト・リコ系だろ?」というシーンがある。その、色の薄いラティーノは、プエルト・リコアメリカの大リーグで活躍する選手の名前を上げて、その選手を誉める。カリブ海プエルト・リコは、スペインの植民地だったこともあり、プエルト・リコにルーツを持つ、スペイン系のプエルト・リコ系のアメリカ移民がいても不思議ではない。この場合のスペイン系とは色の薄い、つまり白人系の人のことを指す。

スペインの植民地時代、アメリカ大陸にはアフリカから、黒人が劣悪な環境の船で連れてこられていた。カリブ海に住む黒人も、もとはアフリカから連れてこられた黒人奴隷だ。アメリカ合衆国や、ラテン・アメリカには、アフリカから連れてこられた黒人奴隷の子孫が多く住んでいる。

ブラザーは、他の惑星から地球にやってきた異星人。しかし、ブラザーは、ニュー・ヨークのハーレムに住む黒人にとってみれば、プエルト・リコやそこらから来た、アフリカ系の移民だ。

異星人と移民。地球の外から来たのが、異星人で、アメリカ合衆国の外からアメリカ合衆国にやってきたのが、移民。異星人も、移民も、移住者ということで、似たようなものだ。そして、ブラザーは、白人によく似た異星人に追われている。そう、ブラザーは、白人のプランテーションから逃れて、北を目指したアメリカ南部の黒人と類似している。ブラザーは、カリブ海系の移民でもあるが、アメリカの黒人奴隷のようでもある。また、奴隷貿易を始めたポルトガル人やスペイン人も白人で、その白人たちは、アフリカ大陸の西アフリカの奴隷の中継点などで、逃げるアフリカ系黒人たちを追い回していたかもしれない。ブラザーは、黒人奴隷で移民のことだと、この映画では比喩的に考えることができる。

では、この映画「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」で、この映画の主人公ブラザーは一体何をするのか? ブラザーは異星人なので地球での生活に困る、というだけでこの映画は終わらない。

ブラザーは、この映画「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」で、黒人を堕落させている社会に立ち向かう。黒人は、アメリカ合衆国にタダで働く奴隷として連れてこられて、奴隷の身分から解放された後も、社会の構造的に底辺に置かれてきた。それは、黒人差別が1984年にもあったことを物語っている。統計的にアメリカ黒人の所得の中央値は2016年でも2万ドル以下だという統計結果もある。この統計結果によると、1989年の黒人の所得の中央値は8000ドルだ(https://www.stlouisfed.org/open-vault/2019/august/wealth-inequality-in-america-facts-figures)※1。つまり、2016年のアメリカ黒人の所得の中央値は、日本のワーキング・プア、相対的貧困者たちと変わらないことになる。アメリカ黒人にはもちろんリッチな人もいるが、アメリカの黒人の所得の中央値は、日本のワーキング・プアとあまり変わらない。アメリカ合衆国と日本の距離感が縮まる気がするのは、気のせいではないだろう。ちなみに、1989年のアメリカの黒人の所得の中央値8000ドルは、1ドル100円と仮定すると、年収が80万円しかないということになる。黒人は、安い賃金の仕事にしか就くことができないという社会的構造、世の中の仕組みが、この黒人の所得の中央値により現れていることになる。

で、このような社会的背景を持った、黒人が、陥るのが、酒とドラッグだ。この映画「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」でもそのことが描かれている。若者はドラッグに走り、若いうちに命を落として、老年まで生き抜いた黒人でも酒に溺れて無気力になる。

ブラザーは、黒人の命を縮める、ドラッグの元凶を突き止めようと、自分の、地球人からしたら特殊能力を使って、ドラッグの売り手のもとに辿り着く。すると、それは、白人のリッチなスーツを着たビジネスマンだった。もし、そのドラッグがコカインだとしたら、そのコカインはラテン・アメリカのペルーからやってきたものだろう。ペルーのコカ農家が、アメリカ黒人を死に至らしめるコカインというドラッグを作っている、と仮定することもできる。ペルーもスペインにより植民地にされた国だ。ペルーの所得も安い。所得の安い者同士が、高所得の白人の利益のために利用される。黒人やペルーの人を低所得にしているのは、リッチな白人たちだ。

この映画「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」では、黒人と白人の対比が、映画の前提になっている。黒人に友好的な白人も登場するが、それは、黒人奴隷制を前提とした仲の良さだ。「黒人たちは、白人の奴隷だった。だが今は、奴隷と意識しているわけではない」という感じだ。アメリカ合衆国において、黒人は奴隷としてアメリカ大陸に渡ってきたという前提から逃れることができない。奴隷制という身体の色の濃さを利用した制度の名残りは、共和党リンカーン大統領が1862年9月に奴隷解放宣言をした160年以上後の今でも残っているのが、正確な現状ではないだろうか?

 

 

 

※1 2023年8月20日閲覧

 

※1952年からプエルト・リコは、アメリカのコモンウェルスとして、アメリカに統治されながらも内政自治権プエルト・リコが持っている。プエルト・リコは、多額の債務を抱えている。


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