映画「泥棒野郎(原題:Take the Money and Run)」を観た。
この映画は1969年のアメリカ映画で、映画のジャンルはコメディだ。
この映画の主人公は、バージル・スタークウェルという1935年12月1日生まれの、ニュージャージー州のスラム育ちの男性だ。ニュージャージー州は、東海岸にあるアメリカ最大の都市ニュー・ヨークを擁するニュー・ヨーク州の右下に位置する州で、ニュージャージー州の右上は、ニュー・ヨークの直ぐ傍だ。
ニュージャージー州には、アイビーリーグと呼ばれるアメリカ東海岸にある8つの名門大学の内の1つの、プリンストン大学がある。アイビーリーグは、ブラウン大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマス大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、イェール大学そして先に記したプリンストン大学からなる。
プリンストン大学はニュージャージー州にあると記したが、ブラウン大学はロードアイランド州、コロンビア大学はニューヨーク州、コーネル大学もニューヨーク州、ダートマス大学はニューハンプシャー州、ハーバード大学はマサチューセッツ州、ペンシルベニア大学はペンシルベニア州、イェール大学はコネチカット州にある。
これらの大学は俗にいうお坊ちゃん大学で、東海岸の裕福な私立エリート校だ。ちなみに、アイビーリーグの中でもっとも有名だと思われるハーバード大学の、年間の学費と寮+食費を合わせると73,000ドルにもなる(2023.1.8閲覧 https://www.ryugaku.ne.jp/knowledge/flow/select/budget.html)。
1ドル132円(2023.1.8為替相場)とすると、ハーバード大学の学費と寮+食費は9,636,000円だ。アメリカ大学は一般に4年制と言われているので、73,000ドルの4倍だと292,000ドルが、学費と寮と食事代にかかることになる。
ただしアメリカの大学は、卒業に必要な単位を獲得できれば卒業できるので、人によっては2年で卒業できるとも言われている。ちなみに、292,000ドルを先の為替相場で日本円に直すと、38,544,000円だ。だいたいざっくり言って4年かけて大学を卒業する場合4千万円近くかかることになる。
アメリカの大学は学費も高いが、それ以外にもアメリカの大学の問題点もある。それは主にデートレイプセックスと、フラタニティの存在だ。フラタニティとは、友愛会のことで、大学内に存在するグループで、そのグループで集まって一つの寮に住んでいる。
例えば、白人の金持ちのフラタニティがあるとすると、そのフラタニティに入るには、通過儀礼を通る必要がある。いわゆる、先輩による後輩いじめだ。また、白人のフラタニティには、例えば黒人やヒスパニックの人は入ることができない。アメリカのフラタニティの様子を描いた映画には、「友情にSOS」(2022)と「ソーシャル・ネットワーク」(2010)がある。
映画「ソーシャル・ネットワーク」は、フェイスブックの2人の創業者の友情と裏切りについて描いた映画だ。フェイスブックの創始者の1人のマーク・ザッガーバーグは、今でもインターネットの代替メディアのニュースにも時折登場する。
ザッガーバーグが仲間と作ったフェイスブックは、世界中にそのアカウントを持つ登録者がいて、フェイスブックの書き込みがロヒンギャ虐殺を引き起こしたとも言われている(2023.1.8閲覧https://democracynow.jp/dailynews/20180801)(2023.1.8閲覧
)。フェイスブックが、ロヒンギャに対するヘイトスピーチを拡散したためだ。
そのザッガーバーグに扮するジェシー・アイゼンバーグが、登場する映画「ソーシャル・ネットワーク」には、フラタニティ入るために新入学生が、先輩たちのいじめを受けるシーンが登場する。
新入生に酒を飲ませて、寒い屋外に薄着で立たせる。新入生に対する酷い扱い方だ。その先輩のしごきを受けて、先輩からの合格の通知を受け取った者が、フラタニティの寮に入ることができる。
先輩による後輩のいじめも酷いが、もっと酷いのが、大学内での男性学生による女性学生のレイプだ。アメリカの大学はキャンパス内でのレイプが存在する。女性に酒を飲ませたり、クスリを混ぜた酒を飲ませて、酩酊状態にさせて、抵抗できなくなったところをレイプする。しかも集団で。
その様子が描かれた映画が、「プロミシング・ヤングウーマン」(2020)だ。この映画では、昔大学でレイプをされて、そのレイプが原因で自殺した友人のために、レイプされた女性の復讐を果たそうとする女性の話が描かれる。その復讐の仕方が、この映画の見どころになっている。
なぜここで、アメリカのお金持ちの大学生について書いたかというと、それには映画「泥棒野郎」の主人公バージルが生まれたのが東海岸で、ニュージャージー州にはプリンストン大学があることと、バージルがスラム街の貧乏な家庭に生まれて、勉強ができずに、いじめられてばかりいたということからだ。
つまり、東海岸にある名門お坊ちゃん高学費私立が、後輩いじめや、人種差別や、女性のレイプをしているようなところで生まれた、貧乏な男の話が、この「泥棒野郎」だ。
この映画の主演で監督と脚本をしているウディ・アレンは、ニューヨーク大学に入学して中退している。ニューヨーク大学に入れる時点で、ウディ・アレンはインテリだ。ニューヨーク大学は難関大学の内の1つだ。
そのウディ・アレンの描くバージルという貧乏人の姿は、実に滑稽で、観ている人の同情と、笑いを誘う。先に上げた名門私立の学生が引き起こしている問題とは、笑いを誘う点で、対照的だ。ただバージルがやろうとするのは、銀行強盗だが、そのやり方が実に情けない。
この映画は数々の有名映画のパロディになっている様子だ。そのすべて上げることは、筆者の能力的にできない。ただ、強盗の際に紙に書いた文章を読ませて強盗をするというのはいかにも映画にありそうな設定だ(多分、元ネタとなった映画があると思う)。
その銀行強盗の際に使う文章はスペルが間違っていて、「俺は銃を持っている」というくだりがうまく伝わらない。そのために、その文章を理解するために、どんどん人が集まってくる。そのあたりが、観ていて非常に滑稽で面白い。
この、バージルの銀行強盗と、有名私立のアイビーリーグの学生がする行為や犯罪と比べると、どちらが嫌な感じを人に与えるか? それは映画実際観てもらいたいのだが、明らかにバージルの犯罪の方が、映画的に好意的に描かれている。別に、銀行強盗が良いというわけではないが。
この映画「泥棒野郎」の中に登場するインテリも、滑稽だ。精神科医が、バージルの子供の頃に熱中したチェロに対する精神分析をするシーンがある。「チェロのネックの部分は男性器で、下の丸みを帯びた部分は女性器で、それを弓でこする」。これは、子供時代にチェロにセックスを見出して、その刺激がバージルに悪影響を与えたと言いたいようだ。
この映画はパロディで構成されていると前述したが、その元ネタの1つに映画「暴力脱獄」(1967)がある。また、この映画「泥棒野郎」が撮られる前の、脱獄映画が、この映画の元ネタになっていることもおそらく間違いないのではないか?
この映画は、パロディ等の方法を用いたコメディ映画だ。やっていることは、銀行強盗や隠れてやっている女性側に脅された不倫などだが、その状況の滑稽さに映画を観ている者は思わず笑ってしまう。
この映画「泥棒野郎」を観ていると、バージルの犯罪と、アイビーリーグのお坊ちゃんたちのやっていることと、一体どちらが酷いのか? そう考えずにはいられない。